バリスタのためのコーヒーカップを作ろう。 岐阜の商社がORIGAMIを生んだ理由と、私の思い。
加藤 高志(かとう たかし)
株式会社ケーアイ取締役。ORIGAMI担当責任者。岐阜県土岐市出身。東京の大学を出たのち、家業であった陶器とはまったく別の業界で勤務。その後、ケーアイに入社。あるバリスタとの出会いからORIGAMIの開発に着手する。現在は東京営業所の責任者として各地のカフェを巡っている。
はじめまして。ORIGAMIを担当している加藤高志です。
普段、私は東京で働いていますが、私が勤めるケーアイの本社は岐阜県土岐市にあります。美濃焼の産地として有名なこの場所には、父が経営する光洋陶器があり、そこで生産された商品の一部と様々なメーカーさんの商品を仕入れ、ケーアイが全国に届けています。陶器の商社というのが、わかりやすい紹介でしょうか。
商社の基本的な機能は、市場を探り、売れる商品を仕入れ、販売することです。新商品を開発することもありますが、その多くは既存商品のカスタマイズにとどまるケースが少なくありません。その中で、ORIGAMIは完全なゼロから設計したオリジナルブランドです。しかもバリスタ、という市場規模でいえば相当にニッチなターゲットを想定しています。買ってくれる先の保証はない中で、なぜ商社である私たちがこの商品をつくったのか。そこにどんな思いを込めたのか。
普段、お客さまの前では、商品の特徴を説明することが多いのですが、ここではその背景についてお伝えさせていただきます。
外の世界を見たから、気づくこと。
私がケーアイに入社したのは2006年。実は、東京の大学を卒業したあとは、まったく別の業界に就職しました。メガネの量販店で販売員としてお客さまに接客していました。来店される方の顔や好みに合わせて、メガネを選び、おすすめする。たぶん、接客がキライじゃなかったんでしょうね。丸5年働きました。おかげでずいぶんメガネには詳しくなりましたよ(笑)
でも、これも縁でしょうか。私が29歳のときに東京近郊での販路拡大のためにケーアイに入社しました。
大学も家業に関係ない農学部にいきましたし、最初の就職先も別業界。……それでも、私のバックグラウンドには、今の陶磁器業界が色濃く残っていたんでしょうね。ケーアイで働くことになったとき、不思議なほどに違和感がありませんでした。
今思えば、すぐに陶磁器業界に入るのではなく、他の業界を経験したことで、より見えてくるものも多かったように思います。業界の閉鎖性や独自のルール、多段階流通の弊害で、なかなかユーザーの声がメーカーに届かないなどの問題点もずいぶんフラットな視点で見ることができましたから。
市場の変化と向き合ったとき、自分たちの存在を見直した。

入社してから数年は、これまで続いていたケーアイの仕事をいかに拡大するかに力を注ぎました。ケーアイの商品は、グループ企業である光洋陶器の商品と、それ以外の40-50社から仕入れています。それをカタログにして、様々な小売店に販売していました。当時は大型ショッピングモールの建設、拡大などで主要顧客であるチェーンの雑貨店舗数も増え、それに引っ張られるように売上も伸びていました。
しかし、近年は新しいショッピングモールの建設も一巡し、ネット通販、低価格商品名の台頭など、主要なお客様である小売店様を取り巻く環境は以前にも増して厳しさを増しているのが現状です。
でもこのような状況は、自分たちは何者なのか? を考えるいい機会になりました。ただの商社ではなく、岐阜に本社がある、ケーアイのオリジナルの価値はどこにあるのだろうと。
ありきたりな結論なのかもしれませんが、結局のところ、私たちの強みはメーカーである光洋陶器と組んでいることにありました。
通常、陶器商品がメーカーから消費者に届くまでには、私たちのような商社や問屋をいくつも通す必要があります。だから、どうしても距離が生まれるんですね。それはコスト的にも、お客さまのニーズから遠のく点でもデメリットです。でも、私たちはグループ企業ですから、ごく近い距離で連携ができる。要望に合わせて生産数を調整できるし、お客さまの声にも迅速に応えられる。
「光洋陶器とケーアイだからできる、オリジナル商品を立ち上げよう」
そう考えたのは、ごく自然な成り行きだったと思います。
市場を見るのではなく、使い手のこだわり、心地よさと徹底的に向き合っていく。
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元々メーカーである光洋陶器では国内外のお客様向けのコーヒーカップの製造を行っており、カップを含めた、コーヒー関連の商材には以前から興味がありました。
個人的にも学生の頃から音楽が大好きで、当時増えはじめていた、音楽を楽しみながらゆっくり過ごせるソファを配置した様なカフェに足しげく通っていました。当時はコーヒーというよりは、お店そのものの雰囲気を楽しみにお店を訪れていたような気がします。
そのような個人的な体験もあり、私にとってコーヒーはすごく親しみのあるものだったんです。ただ最初の頃は漠然とコーヒー関連のお客様が増やしたいという漠然とした方向性のみで、オリジナルカップの製造という発想はなく、光洋陶器の商品をカフェ用にセレクトしそのまま展示会に出展する程度の考えでした。
コンセプトと言えるものはなく、お恥ずかしい話、作り手の目線ばかりで、誰に届けるかという視点が抜けていたんですね。そこに、明確な方針が生まれたのは、ある一人のバリスタとの出会いでした。
トランクコーヒー代表の鈴木さん。彼は今でこそ、名古屋のコーヒー好きによく知られた存在ですが、出会った当時はまだお店を出す前。偶然、デザイナーの先輩から紹介してもらったんです。話を聞くと、そのこだわりに驚きましたね。豆はもちろん、挽き方ひとつ、淹れ方ひとつ、道具ひとつに徹底的にこだわっている。そして描き出すラテアートの美しいこと!

TRUNK COFFEE BAR YASUO SUZUKI
愛知県出身。元大手旅行代理店勤務後、コーヒーを学ぶためデンマークへ。コペンハーゲン・ノルウェーで歴史ある名店のカフェで修行し、日本人初のバリスタとして勤務。そのノルウエーのお店が海外初進出第1号店として、東京・渋谷にオープンすることとなり帰国。ヘッドバリスタとして設立から携わる。日本のコーヒー文化、ライフスタイルを変えていくために、店内外での積極的なイベント、異業種企業とのコラボレーションなど、これまでの常識にとらわれない発想と活動が、様々なメディアで注目されている。
TRUNK COFFEE ウェブサイト http://www.trunkcoffee.com/
彼の話を聞いていくうちに、バリスタがコーヒーカップに機能性を求めていることに気がつきました。たとえば、ごくわずかなアール(角度)でラテアートの作りやすさが左右されるということ。片手で持つ際に、多くのカップのハンドルは大きすぎること。お店のカラーに合わせた色展開がほしいこと。また、国際的なバリスタの大会で使用できる規定のカップが少ないこと、そしてその多くが中国を含めた海外製であることも大きな驚きでした。
……それまで、私は安易な方法で商品開発をしようとしていました。既存の商品をリデザインすればいい、と思っていた部分が少なからずあったのです。けれど、彼の話を聞く中で方針が固まりました。美味しいコーヒーを飲んでもらうためには、プロであるバリスタが納得できる道具がいる。彼らの要求に堪えられるものをつくろう。
開発に技術的な課題はありましたが、方針はシンプルでした。バリスタが使いたくなるものをつくる。品質についても、陶器としてのベーシックな耐久性やクオリティは社内で担保しつつ、細部については何度もバリスタの方にドリップやラテアートを繰り返していただき、もっとも適切な形を探っていきました。
納得がいくものが出来上がるのに、幾度とない修正を繰り返して、大体半年程度かかったでしょうか。
内側に微妙な厚みの差をつけ、対流構造によってラテアートを描きやすくする。一般的なものより小さめのハンドルは持ち手をしっかりホールドしてくれます。11種類のカラーバリエーションはどんなお店のテイストにも合わせられ、サイズはバリスタの国際大会基準。カップのあとには豆の味を十分に引き出せるドリッパーも完成しました。バリスタの愛用品として、納得いただける道具になったと思います。

ORIGAMIは、これからもバリスタを応援していく。
バリスタの方に使ってもらうことを前提にORIGAMIをつくり、実際に使ってもらいながら、今後はさらなる使いやすさ追求のため品質改善を追求します。
同時に、コーヒーカップやドリッパーといった道具だけではない、バリスタへの応援にも力を入れておりまして。これまでにラテアート世界選手権やオンラインラテアート大会に協賛させていただきました。微力ではありますが、業界への支援は今後も続けていくつもりです。
今、大変ありがたいことに、こちらから売り込まずともORIGAMIへの問い合わせが届きます。特にバリスタさんからのご紹介で新しく扱っていただけるお店が増えているのが特徴です。
以前は、全国のレストランをはじめ、様々な飲食店にカタログを持って営業していましたから、この動きは経験したことがなくて、バリスタさん同士の情報共有も含めた繋がりもとても興味深く感じています。このようなご紹介が続けばORIGAMIに関してはセールスマンがいらないかもしれません(笑)。
ただまだスタートして数年ですので、数自体はまだまだ多くはありませんが、少しずつ、届いてくれているのかな、という手応えを感じています。とはいえ、まだまだ私たちが扱う商品群の中では、ORIGAMIはこれからの商品。 もっと多くの方に知ってもらいたいし、たくさんのバリスタに使っていただきたい。コンセプトで掲げた「With Varistor!」を大切にしながら、これからも育てていきたいと思います。


加藤信吾
Kato Shingo
ORIGAMIのブランド設計に外部パートナーとして携わるなかで、様々なバリスタと出会い、各地のスペシャルティコーヒーに感動し、気がつけば一日2杯のコーヒーが欠かせない日々を送る。
twitter:@katoshingo_
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