世界のバリスタが唸る豆「ゲイシャ」で知られるナインティ・プラス社。そのこだわりの秘密と、希少コーヒーの新しい愉しみ方[前編]

世界のバリスタが唸る豆「ゲイシャ」で知られるナインティ・プラス社。そのこだわりの秘密と、希少コーヒーの新しい愉しみ方[前編]

ナインティプラス Joseph Brodsky

2021.11.06

ナインティプラス®️社は、カッピングスコア90点以上のハイクオリティコーヒーだけを生み出すコーヒーのスペシャリスト。
スペシャルティコーヒー界のパイオニアとして世界に知られる存在です。品質の高さはもちろんのこと、ユニークで多彩なフレーバーの数々が驚きをもたらし、バリスタやコーヒー通の間で注目を集めています。

また、コーヒー生産に携わる人々の労働環境改善や、自然保護の精神を大切にする農法にも取り組んでおり、コーヒー業界をよりよくするための活動にも力を入れていることも世界から愛される理由です。

今回は、ナインティプラス創設者のJoseph Brodskyさんにインタビューを行い、コーヒー作りにこめるこだわりや、希少コーヒーの楽しみ方についてお話を聞きました。

──ナインティプラスは何年に設立されたのでしょうか?

私たちは2006年の秋にエチオピアでナインティプラスを設立しました。
以前は父・兄とともに「ノーブルコーヒー」という焙煎会社を運営しており、そこではエチオピアのコーヒーだけを焙煎していました。

──では、エチオピアのコーヒーにはもともと馴染みがあったのですね。

はい。6年間、ノーブルコーヒーでエチオピアの豆を扱ってきました。
2005年からは数度に渡ってエチオピアを訪問し、現地のコーヒー農家と直接やりとりをして豆を購入するようにもなりました。

──初めてエチオピアを訪れたときの印象はいかがでしたか?

コーヒーのパラダイスのようでした。
エチオピアのコーヒー文化の歴史はとても古く、生活にコーヒーが根ざしています。
また、自国で生産するコーヒーの約50%をエチオピア人が消費していて、非常に大きな生産国であり、消費国でもあるのです。
世界のなかで、コーヒーとのつながりが最も強い国ともいえるでしょう。
エチオピアには約100の部族があり、それぞれに独自のコーヒー文化を持っていることや、1万種類以上ものコーヒー品種があることなど、その多様性にも大変魅力を感じました。

そして、私自身の事業としてナインティプラスを立ち上げることになり、2006年8月から2007年4月にかけては、少し長めの滞在も経験しました。
私は単なる焙煎店ではなく、コーヒー生産者になりたいと考えていたため、エチオピアという国や、現地にある1万種以上のコーヒーについてもっと知りたいという思いがあったのです。
そして、エチオピアの農家とパートナーシップを結び、より多くのコーヒー品種を学びながら、ナインティプラスコーヒーを作りました。
パートナーシップを結んでいるコーヒー農家はとても責任感が強くすばらしい家族です。
心から信頼をおくことができるパートナーと出会えたのは本当に幸運なことで、彼らを通してほかにもたくさんのコーヒー農家と知り合うことができました。

──地元の農家さんとどのように連携しながら、ナインティプラスのスタイルを築いていったのでしょうか?

エチオピアにはコーヒー文化が根付いていますが、だからこそ商品化が進みすぎて、安価になりすぎてしまっている面がありました。
そのため、大量生産・大量輸出のための工業プロセスしかなく、コーヒー生産に携わる人たちは低賃金と労働環境の軽視に苦しんでいました。
そこで私は、それまで行われてこなかった特別なことをしたいと思い、小規模で専門性に特化した、世界最高のクオリティのコーヒーを作り、業界のマーケティングモデルの変革にもつなげたいと考えたのです。

コーヒー加工場では、何千ものコーヒー農家から異なる品種の豆を集めて市場価格を支払うことが主流でしたが、私は1種類の豆に特化し非常にクオリティの高いものを生産してくれる農家に市場価格よりも高い料金を支払うことにしました。
これが、特別なコーヒー豆を厳選し、豆が持つ魅力を最大限に引き出すことにこだわるナインティプラスのスタイルの原点になっています。

──豆を安定的に栽培し、国外へ供給できるようになるまではどのような道のりでしたか?

エチオピアのコーヒー農家の人たちは、みんなとても親切で、懸命に働いてくれます。
でも、物流面には苦労がたくさんありました。
エチオピアではさまざまな農村部にコーヒー農家が点在していて、移動がとても大変なんです。
また、せっかくおいしいコーヒーを作れるようになっても、外に持ち出すのが非常に困難でした。
私のような外国人が、コーヒーを持ち出すことの許可を得ることすら難しかったのです。
当時は、すばらしいコーヒーを作れてもそれをなかなか売ることができず、悔しさを感じていました。

それでも私は何年も費やし、その課題を解決しようとしました。
最初の6年間は私自身もエチオピア国内で過ごし、みずから運転して豆を運び、許可手続きを重ね、生産や物流が予定通り進んでいるか確認します。

そして最後には、最終試飲と検定もみずから行います。
その後私は、コーヒーサンプルを持って世界をまわりました。世界各国でナインティプラスコーヒーの試飲体験をしてもらうことに力を入れました。
当時は世界的にもまだスペシャルティコーヒーは新しく、幸いにも多くの人に気に入ってもらうことができました。
エチオピアの地域ごとに味が異なるコーヒーを飲み比べしてもらえたことも、興味を持ってもらう後押しになりました。

特定の生産地で厳選した種類の豆のみを使い、さらに細部まで管理された自然加工で作られたスペシャルティコーヒーの存在を広めることに成功し、ナインティプラスは世界に知られる存在になっていきました。

──バリスタ世界大会でナインティプラスのコーヒー豆が使われるようになったのも、多くの人に知られるきっかけになったと感じます。

そうですね。
私が初めて北欧諸国にコーヒーを持ち込んだ後、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンはが私のコーヒーを大会で使うことを決めました。
当時はシングルオリジンが珍しかったことや、ナインティプラスのコーヒーがとてもフルーティな味であったこと、そして自然農法で採れた豆を使っているという事実に人々は驚いていました。
同時に、発酵させる独自の製法で生まれた味が新しかったことから、賛否両論も巻き起こったのです。
それによって、大会後は誰もがナインティプラスのコーヒーを話題にしていました。

その後はコーヒー好きの人々が少しずつ口コミを広げてくれ、私が訪れたことのない国の人々さえナインティプラスコーヒーのことを書いてくれるようになりました。
当時私は、とにかくエチオピアでのコーヒー輸送のことや資金繰りのことで頭がいっぱいで、それらの国を訪れることができませんでしたが、最近ようやく訪問できるようになったんです。
その頃はまだSNSも今ほど発達していなかったので、現地に行ってみてようやくリアルな反応を知ることができました。

──現在ではスペシャルティコーヒーの需要も世界的に伸びてきており、生産者が増えてきています。そのなかで、ナインティプラスの独自性はどんな点だと考えていますか?

 

私が力を入れたいのはコーヒー栽培だけでなく、コーヒー業界の全体的な部分を「もう少し良くすること」なんです。
豆の加工や厳選以外にも、コーヒーを通して人々にホスピタリティを提供したり、農園に招待して間近でコーヒー作りを体験してもらうことなどもやりたいと思っています。
また、環境への配慮も大切にしていて、私の農園では自然農法によってコーヒーの木が森林のなかでほかの木と共生しています。
周囲の大きな木が、日陰を好むコーヒーの木の日傘の役割を果たしてくれるというメリットもあるのです。
通常、コーヒー農園は元々生えていた木を切り倒して作られることが多いですが、私たちは反対に、コーヒーを育てることによって森の再生も目指しています。

 

生産者たちがもっとおいしいコーヒーを作りたいと思うのは当たり前のことですが、それだけではなく、生産者や農家、訪問者、木々など、コーヒー作りにかかわるすべての存在にとって幸せな方法や考え方を広めていきたいのです。
この思いは、我々のアイデンティティにもなっています。

──理想的な味を実現するための製法としては、どんな点が強みになっているのでしょうか?

 

まず、これまでスペシャルティコーヒーの生産に対し多くの年月を投資し、現在3つの大きな農園を持っていること。
特にパナマの農園は1000ヘクタールあり、そこではエチオピア伝来種の成熟した木が育っています。
自然農法でここまで多くの木々を育てている生産者はほかにいないでしょう。
ここまでのレベルに達するには、長い年月がかかります。

 

もうひとつは、豆の加工。特に発酵ですね。
私がナインティプラスを設立してから約15年間、私はずっと発酵の方法を模索し続け、独自のノウハウによって味の違いを実現してきました。
それによって、ゲイシャのように、ひとつの品種の豆から多彩な味の商品を生み出しているのです。
それらが高い価値となり、多くの人に広まることへとつながりました。

──ナインティプラスのコーヒーには個性豊かなフレーバーがあることも特徴的ですよね。

 

品質の高いコーヒーの実は、加工する前からとても特別なフレーバーの原石を持っています。
そうした素材が発酵を経て、さらに特別な味へと変化していくのです。発酵方法の数にしたがって、味のバリエーションも増えていきます。
ワインも同じですよね。
果汁だけで作るのか、皮も入れるのか、酸素や水の量、温度など、さまざまな要因のバランスによって多彩な味が生まれます。
コーヒーにも本当にたくさんの発酵のやり方があって、私たちは長い年月をかけて味の違いを生み出してきました。
現在も発酵方法の研究を続けており、イノベーションを繰り返しています。
これからもどんどん新しいものが生まれていくことになるはずです。

これまでの話をまとめると、ナインティプラスはとても特別な場所でコーヒーを育て、かかわる人すべてにとってハッピーな生産体制を目指し、発酵による多彩な味の実現を強みにしています。
農園には森林や滝、トレイルコースなどがあり、野生動物もいます。自然豊かですばらしい場所です。
いつかぜひ農園を訪れて、さまざまな発酵方法で抽出された最高級のコーヒーを飲み比べる体験をしてみてもらえたらと思います。

 

◆[後編]では、ナインティプラスとORIGAMIの共同開発によって生まれた新しいブリューセットの話題と、Josephさんが思い描くこれからのビジョンについてお話を伺います。

 

ナインティプラス
https://ninetypluscoffee.com/

ナカシマ ミエ

Nakashima Mie

ORIGAMIや社内で取扱う食器の企画 / PR担当。
ORIGAMIを多くの人に伝えるべく、日々奮闘中。
食べる事が大好きで、直感で働く美味しいものレーダーを頼りに夫婦で食べ歩きするのが趣味。

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