自分の帰る場所は、自分でつくる。【自由なコーヒー。vol.7】

自分の帰る場所は、自分でつくる。【自由なコーヒー。vol.7】

dAb COFFEE STORE 小林大地 海淵玲子

2019.11.20

自由なコーヒー。

一杯のコーヒーに、無限の可能性を感じる人たちがいます。常識や流行にとらわれず、直感に従いながら、目の前の人やもの、ことに向き合う人たち。ロースター、バリスタ、ときに料理人、ビジネスマン、もしかしたら茶人も。場所や職業を問わず、さまざまな形でコーヒーに関わる彼らは、どのようなことを考え、その道を歩むことになったのでしょう。彼らの営みを通じて、コーヒーが持つ自由な側面を切り取っていきます。

新潟駅よりほど近く、住宅街に差し掛かる駅通り沿いにオープンした「dAb COFFEE STORE」。雑居ビルの1階だが、店内へ入るとアーチ状の天井が印象的だ。開業して約一年、県内外の人々の溜まり場となっているようだ。

人々がゆっくり立ち寄っていけるようにと、繁華街でなく住宅街の物件選んだ

dAb COFFEE SROREで迎えてくれるのは、小林大地さんと、海淵玲子さん。それぞれ東京のコーヒーショップで看板スタッフとして働いていたが、新潟へ移住し、開業することを決意。半年以上にわたる物件探しや改装を経て、新潟駅から徒歩10分ほどの立地に店を構えた。大地さんの実家は、店から車で20分ほど。玲子さんは故郷の神戸、東京に次いでこの地へやってきた。

左が大地さん、右が玲子さん
外装・内装は、東京時代の知人によるもの

新潟駅へ行く道すがら、出勤前に立ち寄る人。週に二回以上話し込みにやってくる人々。下校途中に足を止めていく小学生。一方で、県外から二人に会いにと、様々な生業の仲間たちがやってきては展示やイベントを催している。

愛着が湧くようにと、限りある予算のなかで塗装などは自分たちで行った
店にはいつも海淵さんの焼き菓子が並ぶ。

新潟市は日本海側で唯一の政令都市でありながら、「コーヒーカルチャーがそこまで栄えていない」という。地元の人々が「何もない」とすら語るこの場所で、なぜコーヒースタンドを始めたのか。その先に見る未来とは? 旅の道中、店に立ち寄って話を聞いた。

遊び場をつくりたかった。

なぜ、新潟でコーヒースタンドをオープンすることに?

大地
自分が新潟へ帰ったときに遊べる場所を作りたかったんです。地元の友人は大体結婚して子供がいたりして。彼らの行き場を作ってやりたいなと。こっちだと、みんなそんなにやることないみたいなんですよね。

それは東京のコーヒースタンドにいる時から考えていたんですか?

大地
僕が働いていたLittle Nap COFFEE STANDという店でお客さん同士が繋がっていくシーンを見て、自分もそんな場所を作りたいと思うようになったんです。

店内に流れるのは大地さん選りすぐりのレコード

いつから、どうしてコーヒーを仕事にしようと?

大地
大学時代ですね。アメリカに留学しているときに通う店ができて。ロサンゼルスのダウンタウンから車で一時間もかかる田舎で、今思えばそこのコーヒーも美味しかったのかよくわかりませんが(笑)、当時僕は全然英語が話せなかったので、練習も兼ねてとにかくよく行きました。

足を運んでいるうちに、友達や知り合いが増えていって、そういうの良いな、そういう場所ってすげえ、って思うようになって。

帰国して、就職活動をしなきゃならない時期を迎えましたが、特にやりたいこともなくて、コーヒースタンドで働き始めました。

『SHUKYU Magazine』刊行イベントの際も県内外から人が集まった

実際に働き始めてみて、どうでしたか?

大地
勤めたのが小さい店(Little Nap COFFEE STAND)だったので、お客さんとの距離、お客さん同士の距離が近くて、日々の光景を見ていて「新潟でもやりたいな」と思うようになりました。

それで新潟へやってきたんですね。開業時、地域の方々にはすんなり受け入れてもらえたのでしょうか?

大地
まだ一年も経っていなくて(取材当時)地元にどれくらい受けられているかはわかりませんが…。Little Nap COFFEE STANDで働いてる時に比べると、朝は本当にお客さんが少ないです(笑)。そんな中、2日に一回、ないし週の半分くらいは来てくれるお客さまたちが増えてきていて、ありがたいです。

朝来るお客さまがたは、おしゃべりな人が多くて。もともとの知り合いって人たちも結構いるから、来店者同士も会話も弾む。そういう光景を見られるのは嬉しいですね。

ポップアップのイベントなどもよくされていますね。

大地
色々やりたいと思っていたので、広さのある物件を選びました。東京は遊ぶ場所がいくらでもあるけど、新潟はないから、遊ぶ場所は自分で作らないと。

シンプルにコーヒーと焼き菓子を出しているだけだから変幻自在にやれているんだと思います。ここがコーヒースタンドでなく、レストランだときっと難しいですね。

「新しいことをやるのは嫌いじゃない」

大地さんが新潟へ戻ることになって、一緒に移住することに抵抗はありませんでしたか?

玲子
知らない土地へ行くのに抵抗はありませんでした。新しいことするのは嫌いじゃないんです。まあ友達はいませんけど、2ヶ月に一度は東京へ戻ったりと県外に出て気分転換していて、ストレスも感じていません。

もともと神戸出身と伺いました。東京での暮らしを経て、新潟に移り住んでみていかがですか?

玲子
東京へは就職を機に出てきました。東京はたまに行くならいいけど、ずっと住む街じゃないなってずっと思ってましたね。人が多いので面倒なことや、無駄なストレスが多い。楽しい街ですが、歳をとって住みたくはないなと感じていました。

新潟ははじめて暮らす土地で、知らない人ばかりで、日々試行錯誤しています。これまで当たり前だったことが当たり前じゃない。数ヶ月暮らして働いて見ても、まだまだわからないことが多い。でも、新しいことをやるのは好きなので、そんなことも楽しんでいます。

焼き菓子店にも勤務していたものの、焼き方はほぼ独学で学んだ
スパイスなどの素材づかいが見事な焼き菓子の数々は、満足感が得られると評判だ

お菓子づくりの仕事は以前から自分で舵をとってやりたかったのですか?

玲子
東京時代は知人たちがやっているように、店を持たずに焼き菓子を焼くような方法で仕事にしていけたら、と考えてました。店を持ってしまうと、自由に動けませんから。

ですが、実際にここではじめて見ると、これまで暮らしてきた神戸や東京都全く異なる文化圏で、これまで当たり前だったことが全然違う環境で、それを面白がりながら楽しんでやれています。

より、地元の店に。

東京から新潟へ来てお客さんと接していて、どんな違いを感じますか?

玲子
東京から移住して店をやっている知人なんかには、シャイで物静かな人が多いと聞いていたのですが…うちの店に来る人たちはそんなことないですね。キャラが濃い人が多いです。

大地
確かに。先日うちへ立ち寄った写真家さんにも、「変な奴ばっかりいるな」と言われました(笑)。県民性とうちに来る人の特性は合致していないかもしれません。

そういった人たちに、ある意味居場所ができたとも言えるかもしれないですね。

大地
どうでしょうね。ただコーヒー屋自体がほとんどありませんからね。良い意味で、もの好きな人が集まってきている気もします。

新潟には、コーヒー一杯に400円くらいかける文化がまだありません。そういうところで、コーヒーのカルチャーを自分たちで作っていけたら、という面白みを感じて店を作った節もあります。東京はもうコーヒー屋いっぱいあるから、もう良いですよね(笑)。

大地
東京時代の知人たちがここで色々なイベントをやってくれますが、先日は、新潟在住のライターさんと、東京からのゲストのトークショーをやって。これからもっと地元の人と絡んでやっていきたいな、と思っています。

新潟で、より根を張っていけるとますます面白くなっていきそうですね。これからの展開も楽しみにしています。ありがとうございました!

カップには、地元の萬代橋で少年がコーヒーを飲む様子を印字した
夕暮れを望む萬代橋。

大地さんの故郷への眼差し、玲子さんの、異なるものを受け止める力。

二人はコーヒーと焼き菓子というシンプルな提供を続けながら、コーヒースタンドだからこその自在性を生かして、これからも新潟でさまざまな人が行き交う場所を作り上げていくことだろう。

新潟を訪れる際はぜひ立ち寄って、彼らが編み上げる人の輪に、読者のあなたも入り込んでみてはいかがだろうか。

 

Interview&Photography:Tomohiro Mazawa
Text&Composit:Viola Kimura

dAb COFFEE STORE(Instagram)
https://www.instagram.com/dabcoffeestore/

木村びおら

Viola Kimura

出版社勤務を経てエディター/ライターに。雑誌や書籍、WEBなどで編集・執筆をするほか、イベント企画やPRなども手がける。現在は医療専門誌の編集の傍ら、教育、福祉、デザイン、ものづくり、食などのコンテンツ制作に携わっている。写真家の夫と2人の子どもと4人暮らし。

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