ORIGAMIを探しにいこう。Vol.4 ユーザーが欲しいと思ったときに、そっと商品を手渡せる。 そんな距離感の会社でありたい。

ORIGAMIを探しにいこう。Vol.4 ユーザーが欲しいと思ったときに、そっと商品を手渡せる。 そんな距離感の会社でありたい。

光洋陶器株式会社 専務取締役 / 加藤伸治

2019.09.13

ORIGAMIの販売から5年たった今。ORIGAMIをつくる人たちに、「何がすごいのか?どんな風に作られているのか?」などの疑問をなげかけ、ORIGAMIブランドを紐解いていく連載。最終回となる第4回は、ORIGAMIの開発・製造を担う光洋陶器 専務取締役の加藤さんにお話をお伺いしました。

ORIGAMI開発のきっかけや製造時の苦労はもちろん、光洋陶器が目指すものづくりについても話は広がりました。

光洋陶器株式会社
日本の50%以上の陶磁器生産量を誇る岐阜県東濃地方に本社を構える陶磁器メーカー。国内外の食のプロフェッショナルに向けた製品群は、品質・デザインともに定評がある。
https://www.koyotoki.co.jp/

徹底的に機能性にこだわったORIGAMI

まずは、ORIGAMIの製造がはじまったキッカケから教えてください。

加藤
ORIGAMIを企画したのは、グループ会社である株式会社ケーアイです。ここからバリスタ向けの陶器を作りたいと言われたのがスタートでした。陶器の機能性だけを突きつめて製作をしたことがなかったので、話を聞いたときはワクワクしましたね。

そもそも食器ってあまり機能性を求められないんですよ。どちらかというと、料理を演出するものですから。だからどういうデザインのものを作るか? というところから出発することが考えることが多いんですが、ORIGAMIはかなり機能性にフォーカスしました。

なぜ機能性が必要なのだったのですか?

加藤
バリスタ専用となると、大会規定サイズに合っている必要があったり、匂いがきちんと香るような形(構造)があったり、扱いやすいハンドルだったり……具体的な性能が求められるんです。

ただバリスタの腕があるだけでは、良いコーヒーってうまれないんですね。良質な豆はもちろんですが、相性がよく安定した道具も絶対に必要で。そういう部分を含めて、機能性を重視し、突き詰めていくことは、今までにないアプローチで発見が多かったです。

ORIGAMIは多くの人の手仕事によって品質を高めています。

機能性重視で作っているとき、難しいところはどこにありましたか。

加藤
特にカップの中身の構造ですね。カップには外側のアウトラインと内側のインナーラインがあります。

一般的なカップの製造では、カップを外から見たときのライン(アウトライン)と内側のライン(インナーライン)の両方を気にかけることは、ほとんどないんです。アウトラインを決めれば、インナーラインはそれに合わせて、どちらかといえば製造都合で決まります。

だけどORIGAMIはインナーラインにすごいこだわりがあるんです。ラテアートをしたときに、カップの中でミルクが対流するように設計された絶妙なカーブを実現しているとか。ここにはミリ単位でこだわりました。

確かに、よく見るとアウトラインとインナーラインが違うのがわかります。

加藤
一般的なカップでそこまでこだわることはまずありません。外側のラインが美しければ、見た目にも影響ありませんし。それに、やっぱり作りにくいですよ(笑)。どうしてこんな形にするんだ? といった現場からの声も結構ありました。

 

なるほど。それだけ他とは違う製品だったのですね。

加藤
でもやっぱり作っていて楽しかったです。メーカーとして、TRUNK coffeeの鈴木さんのような一線で活躍されているバリスタの方と実際に話をして、制作していけるのは手応えがあるし、工場のスタッフも嬉しそうでした。

普段、私たちのところまで使い手の声が届くことって少ないんです。特に自分が作ったものがどんな人に、どういうところで使われてるのか、見えないことが多いですから。

欲しいと思ったときにそばにいる、そんな距離感の会社にしていきたい。

加藤
こちらからの質問なのですけど、物を買うとき、裏側の背景がありすぎると重たいと感じることはありませんか?

それはすごく感じます。最近は作り手の裏側を見せるみたいな手法が一部流行りになっているような気がしていて……。ストーリーはもちろん大事だけれど、それ以上に商品としての機能性があれば、正直ストーリーは後からでもいいのでは? と思うこともありますね。

加藤
僕もそう感じています。商品づくりの背景に説得力のあるストーリーがあるっていうのはいいんですけど、あまり表に出すぎていると少し不自然な感じがすることもある。

特に私たちはある意味で伝統的な産業のメーカーなので、商品の良さを自ら言葉にしすぎることに馴染みがないのかもしれません。

なるほど。では光洋陶器さんでは何を大切にしているんでしょうか?

加藤
私たちは、商品がいろんな人たちのところで活躍できること、つまり実用的であることが一番だと思っています。だから商品の紹介をするときは、ことさらに自分たちを大きく見せるのではなく、等身大でありたいと感じています。

使う人の声を聞きつつ、使う人に並走してものづくりをしていく。それが、私たちにとってのちょうどよい距離感なんでしょうね。

 

メーカーが消費者を意識して、先回りして何かを作るというわけではないということですね。

加藤
これいいでしょ、これもいいでしょって、新しい商品をホイホイ渡したり、たくさんのストーリーを打ち出して感情に訴えて販売というよりは、お客さんがこういう道具を使いたいと思ったときに、光洋陶器の食器があればいいですよね。

常に使い手側にいるブランドではあるけれど、使い手が「ああ、こういうの欲しいなぁ」となった時にそっと渡せる場所にいる。会社としてはそんなポジションにいきたいと考えています。

光洋陶器の工場。ここから何千種類もの陶器が生まれます。

ORIGAMIも同様の思想から生まれたのでしょうか?

加藤
光洋陶器では、様々な種類の陶器を年間で数百種類を開発しています。例えば、ホテルやレストランなどのプロフェッショナル向けの食器です。どんな料理を盛り付けるかなど、細かやな要望に応え作っていますが、ORIGAMIほど機能性に特化したものは、今までありませんでした。そういう意味ではかなり挑戦的なプロダクトになったと思います。

そして、このORIGAMIが少しずつですが確実に広がっていくことは、私たちにとっても嬉しい驚きでもあります。実用性の高さを含め、明確な誰か、今回だとバリスタといった相手に寄り添った商品を、これからも考え実現化していこうと思います。

ただ売るだけではなく、欲しいときにそっと側にいる会社でありたいという加藤さん。このような会社でORIGAMIが作られているという事実は、とても頼もしいことだと感じました。

4回に渡り続いた「ORIGAMIを探しに行こう」の連載は、これでひとまず幕となります。今後もさまざまな角度からORIGAMIの魅力やユーザーの声をお届けしていきますので、これからもwith BARISTAの記事をお楽しみください。

稲垣 佳乃子

Inagaki Kanoko

学びと食の企画・制作会社「KUUMA inc.」と、福祉実験ユニット「ヘラルボニー」に所属。2019年からはWith barista編集長の「LANCHI.inc」にも顔を出す。神戸と東京を行き来し、ときどき名古屋で途中下車する生活を。コーヒーは、朝昼晩の3杯が基本。好きな食べ物はわかめ。@fugusushijapan

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