元サッカー留学生が拓く、マレーシアのコーヒーカルチャー
元サッカー留学生が拓く、マレーシアのコーヒーカルチャー

元サッカー留学生が拓く、マレーシアのコーヒーカルチャー

ARTELIER COFFEE KITCHENバリスタ/青木正浩

2018.11.01

こんにちは。ORIGAMI JOURNAL編集部です。

 

皆さんは、マレーシアのコーヒーカルチャーと聞いてどのようなイメージが湧くでしょうか? 観光地としての印象が強く、現地の人々が普段着でコーヒーを飲んでいる風景はなかなか思い浮かばないかもしれませんね。実は今、東南アジアの様々な国でコーヒーカルチャーが盛り上がろうとしているというのです。

 

今回のゲストは、7年前にマレーシアに渡り、クアラルンプールの中心地でコーヒーショップを立ち上げた青木正浩さん。国際的なバリスタの競技会に出場したり、現地でコンサルティング事業をされたりと、現地で様々な面からコーヒーカルチャーの醸成に奮闘しています。そんな青木さんが、マレーシア及び東南アジアのコーヒーシーンをどのように見ているのか、お話を伺いました。

ARTELIER COFFEE KITCHENバリスタ
青木正浩
サッカーの道を目指してイタリアに渡り、カフェ文化に触れる。怪我を機に帰国し飲食店で働くうちに、様々な縁からバリスタを目指すことに。オーストラリアでコーヒーを学んだ後、日本でバリスタとして活躍。マレーシアの新規店舗の立ち上げに召喚され、そのまま現地で店舗を運営しながらバリスタ育成などに奔走している。

-なぜ、マレーシアだったのでしょうか?

 

青木
もともとシンガポールの知人が飲食店の立ち上げを仕事にしていて、マレーシアに日本発のベーカリーとカフェを立ち上げる際に、コーヒー部門を見て欲しいと誘われたことがきっかけでした。僕は当時日本でバリスタとして働いていて、それまでは一度もマレーシアに行ったことはありませんでした。

 

-そうなんですね。そもそもバリスタを目指された経緯は?

 

青木
昔からサッカーをやっていて、社会人になってからお金を貯めて本場イタリアへ挑戦しに行ったんです。ですが怪我をしてしまい、一時帰国して飲食店で働き始めることに。そこはイタリアンレストランでコーヒーも出しているようなところで、僕はそこでコーヒーを淹れていました。世界大会で審査員をしているような方の豆を使っているような店でした。

-帰国して、再びイタリアの地へ渡るか、サッカー関係の職に就こうとしていた。

 

青木
はい。やはり怪我のことがありプレイヤーとしてやって行くのは難しそう、ということになって、サッカーのコーチ関係の仕事を始めようと考えていました。ところが、だんだん飲食店で担当していたコーヒーが面白くなってしまって(笑)。それで、コーヒーの道へ進むことに。バリスタとしてより勉強しようとオーストラリアへ渡りました。帰国して、また日本でコーヒーを淹れながらコンサルティング事業なんかも始めたのですが、そうしているうちにシンガポールの知人からマレーシアの話をもらって。

 

-マレーシアのコーヒーカルチャーはどのような感じなのでしょうか?

 

青木
僕が渡った2011年ごろはまだそこまでカフェの文化は栄えていませんでしたね。発展途上都市としてクアラルンプールは前々から注目されていますし、実は日本のリタイア後の方々が渡る国として10年ほど連続で一番に選ばれているんです。それが今、地理的に近いオーストラリアを筆頭に海外からもロースターが入ってきて、だんだんとスペシャリティコーヒーを飲む人が増えてきている状況です。マレーシアは親日国家であることもあり、日本とのコーヒーを通じた交流も盛り上がってきています。

-マレーシア独特のコーヒーの飲み方もあるとか。

 

青木
現地で飲まれている昔ながらのコーヒーは「コピ」と呼ばれ、一杯30~40円ほどで飲めます。ローストする時点でマーガリンを加えているので、僕たちが飲んできたようなコーヒーとはまた違った飲み物という印象ですね。独特の香りで苦味も強く、砂糖や練乳と一緒にいただきます。いわゆるカフェラテは、コピの5倍くらいの値段。ですから従来エスプレッソの類は裕福じゃないと飲めないものでした。それがこの6、7年で変わってきています。

 

-そんなマレーシアへ飛び込み、スペシャリティコーヒーを広げていったとのことですが、初めはどのようなコーヒーを淹れていったのでしょうか?

 

青木
まずは興味を持ってくれる人を増やそうということで、ラテアートやデザインカプチーノなど、ミルクを使ったコーヒーを。日本で色々なバリスタさんと磨いた技術で、最初は見た目からお客様を惹きつけられたらと考えました。日本のキャラクターを描いたものが結構反響を呼びましたね。そうやって視覚からコーヒーに興味を持ってもらい、店でのコミュニケーションを通じてお客さんがついていきました。

 

-お客さんとのコミュニケーションを通じて、という点は青木さんがイタリアで培ってきたカルチャーを体現しているようですね。

 

青木
言われてみればそうかもしれません。僕は、コーヒーショップへ行ったらバリスタと話します。旅先では特に。コーヒー以外の情報も結構知っているんですよね。コーヒーを飲める店では、良いバリスタがいるということが最も重要なことだと思います。サービス精神やホスピタリティを兼ね備えているバリスタが理想像です。若いバリスタを育てていくことは自分の仕事の中でも特に力を入れているところです。

-バリスタを育てる上で大切なことはなんでしょうか。

 

青木
常に向上心を持って成長し続けていることですね。特にマレーシアというフィールドにおいては、コーヒーというカルチャーに興味を持ってもらえるような振る舞いも重要です。コーヒーはトレンドの移り変わりが早いですから、豆、抽出方法、器具についても勉強し続けていかなくてはいけません。そのためにはやらなくてはいけないことがたくさんなのですが、今の店のチームのみんなはそれを楽しんでついてきてくれています。

-これからORIGAMIをお店へ導入していくとのことですが。

 

青木
もともと名古屋のTRUNK COFFEEさんの紹介で、ドリッパーなど実際に使ってみて良いな、と。カラーのバリエーションがあって、カップの色によって味わい方が変わる楽しみもあるなと。

 

-カップの色によって味の感じ方が変わる。それは初めて聞きました!

 

青木
白いカップだと苦味を感じやすく、苦味を連想させるコーヒーの茶色を引き立たせるんですね。逆に透明や青のカップだと甘みを感じるんだそうです。赤は情熱的で元気をもらえたり、ピンクは女性らしさを感じさせたり、緑はリラックス効果があったり。そういう意味で興味がありました。カップの形によっても味わいに変化がありますよね。

 

-お酒のような感じでしょうか。

 

青木
まさに、ワインや日本酒は、グラスの材質や厚みなどで味や香りが変わるという点で最近楽しまれていますよね。コーヒーもそういう飲み方がされる時だと思うんです。例えばティーカップのような幅の広い形状だと冷めやすいけれど香りを楽しめる。エスプレッソやコーヒーといえば温度を保つことが常識でしたが、温度が下がっていく時の変化を感じられるのも良いですよね。

-ORIGAMIのドリッパーも使っていくそうですね。

 

青木
陶器と磁器の違いもありますね。磁器って本当に熱伝導が良い。下のストッパーに木を使っているのも、熱を逃がしにくくしてくれるという点で、他の器具と違って良いなと感じました。

 

-こうした器具があることで、コーヒーを自分で淹れて飲む人が増えると思いますか?

 

青木
そうですね。スペシャリティコーヒーがまだ上陸したばかりで、少しでも色々なお客様に興味を持っていただきたいという状況のなか、コーヒーカップや器具もそのきっかけになると思います。家でもドリッパーで淹れてもらえれば、よりコーヒーを好きになってもらえると手応えを感じています。

-マレーシアでは、家でコーヒーを淹れる文化はありますか?

 

青木
僕の店に来るお客様のなかだと、ショッピングセンターということもあり、意外と主婦の方が淹れていたりしますね。今後もっと家で飲む人を増やして、スペシャリティコーヒーを日常的なものにしていけたら良いなと思っています。

-今後の展望について教えてください。マレーシアを拠点にどのようなことをしていきたいとお考えですか?

 

青木
マレーシアでもコーヒーのイベントやバリスタのための大会が行われていますが、クアラルンプールのコーヒーフェスティバルを作りたいです。今、ロースターがどんどん増えているので、コーヒーを通して色々な方同士を繋げていけたら。そうした場で一般の方にも、カップやドリッパーによってどれだけ味わいが広がるかを体感してみてもらいたいですね。

 

そして、マレーシアに限らず東南アジアの国々へも活動を広げていきたいですね。インドネシアのジャカルタにも若いロースターさんたちがいるので興味があります。ミャンマーもこれから盛り上がりそうです。

 

コーヒーは、人と人を繋ぐ。そこでバリスタは大切な役割を担っている職業だということを伝えたいです。バリスタの価値をもっともっと上げられるよう、引き続き頑張ります。

いかがでしたでしょうか。

 

青木さんはこれからも日本とマレーシアを行き来しながら東南アジアへも活動の幅を広げていくそうです。日本とは違う文化土壌でどのような展開をしていくのか、楽しみですね。その過程でORIGAMIのカップやドリッパーが現地の人々にどのように使われていくのかも、また教えていただけたらと思います。

 

photography: Naoto Date

クアラルンプールを代表するショッピングモール「PAVILION KUALA LANPUR」内に店を構える「ARTELIER COFFEE KITCHEN」。青木さんやバリスタたちが笑顔で迎えてくれる。

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木村びおら

Viola Kimura

出版社勤務を経てエディター/ライターに。雑誌や書籍、WEBなどで編集・執筆をするほか、イベント企画やPRなども手がける。現在は医療専門誌の編集の傍ら、教育、福祉、デザイン、ものづくり、食などのコンテンツ制作に携わっている。写真家の夫と2人の子どもと4人暮らし。

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