”a part of community”として、東長崎をクリーンで暖かい空気にしていく。【自由なコーヒー。vol.10】

”a part of community”として、東長崎をクリーンで暖かい空気にしていく。【自由なコーヒー。vol.10】

MIA MIA ヴォーン・アリソン&アリソン理恵

2021.06.01

自由なコーヒー。

一杯のコーヒーに、無限の可能性を感じる人たちがいます。常識や流行にとらわれず、直感に従いながら、目の前の人やもの、ことに向き合う人たち。ロースター、バリスタ、ときに料理人、ビジネスマン、もしかしたら茶人も。場所や職業を問わず、さまざまな形でコーヒーに関わる彼らは、どのようなことを考え、その道を歩むことになったのでしょう。彼らの営みを通じて、コーヒーが持つ自由な側面を切り取っていきます。

MIA MIA(マイア マイア)ーーコーヒー好きならその店を知る人も多いだろう。MIA MIAとはオーストラリアの先住民の言語のひとつ、ワダウルング語で「家族や友人、通りがかりの人たちが集うシェルター、小屋」を指すが、実際に訪れてみると文字通り人々の憩いの場になっていることがわかる。コーヒーライター、モデル、英語教師、音楽プロモーターと多様な顔を持つアリソン・ヴォーンさんと、その妻で建築家の理恵さんが、昨年春に東京・東長崎にオープンしたMIA MIAは、今や近隣の老若男女を中心に、多様な人々のコミュニティ・プレイスとなっている。

バックグラウンドを異にする人々がコーヒーを中心に打ち解けてしまうから不思議だ。※撮影のため一時的にマスクを外しています

アーチを描く窓、角の丸いショーウィンドウや窓際のミニ・ステージ。かつてのブティックの面影を残すカフェは、誰しもに「愛らしい」という印象を抱かせる。設計と空間づくりを手がけた理恵さんは、テーブルや椅子などのレイアウトだけでなく、色彩や照明に至るまでさりげない配慮を行き渡らせていた。集う人々を分断しない、という気遣いがところどころに込められている。

店内外のすべての人に話しかけていくヴォーンさん
この日初めて来店したという女性

コーヒー豆やカップ、器などは、どれも夫婦がこよなく愛する作り手のもの。ヴォーンさんの故郷メルボルンのPADRE Coffeeをはじめ、様々なロースターから届く豆の数々を見ると、彼のこれまでの活動の軌跡を少し辿ることができる。また浅煎りから深煎りまで幅広くオンメニューするのは、多様な客それぞれに好みの味を提供したい思いからだ。

オーストラリアの空気を感じられるのも楽しい。店内には、夫婦が惚れ込んだ現地のアーティストの作品やプロダクトが並ぶ。これらをより厚く紹介していきたいと、この春MIA MIAから徒歩2分のスペースに、ギャラリーI AM(アイアム)もオープンした。

MIA MIAの魅力はヴォーンさんと理恵さん、スタッフ勢の人柄にあると方々で語られるが、その背景にはどんな思いや未来像があるのだろうか。カフェオープンから一周年を迎えた春のとある日、代表の二人に話を聞いた。

MIA MIAオリジナルのコーヒーマグはyumiko iihoshi porcelainのもの。ORIGAMIのカップもあり、「メイド・イン・ジャパン」なのが気に入っているとコメントしてくれた
よくお茶しにきていると話してくれた近所の親子

属性を分断しない場所づくり

−–MIA MIAをオープンさせることになった経緯は?

理恵:ずっとカフェをやりたかったんですがお互い忙しくて。私が前の事務所をやめたタイミングで物件探しを始めました。はじめは代々木界隈で考えていましたが、ネットであの東長崎の物件を見つけて可愛いなと思って。ヴォーンもここだったらいいかもって言い始めて、実際に見に行ったんです。

とある日の夕刻、ZOOMでインタビューを行った。

−–物件との出会いがきっかけだったのですね。

理恵:はい。話を進めてみたら、大家さんが理解のある方だったんです。「街に面白いことをしてくれる人がいい」ということで、図面を作って大家さんに提案したら良いですね、と言っていただいて。

−–大家さんもMIA MIAのコンセプトに共感してくださってるのですね。オープンして一年、緊急事態宣言も発令されていましたが、どうでしたか?

理恵:コロナが良かったなんで絶対言いませんが、緊急事態宣言が発令されていたのは店としては良かったんじゃないかなと話しています。ヴォーンが求心力が強いので、店を持つと遠方からも色々な人を引き寄せてしまう。ですが緊急事態宣言中はそうした人たちが来れなくて、本当に地元の人しかいなかったんです。ゆっくり地元の人に挨拶してお話しする時間が取れました。地元の面白いアーティストさんと繋がれたのも良かったです。今みたいに忙しいとゆっくり話せなくて、出会えなかった人も多かったと思います。

ヴォーンさんが出会ってきたロースターより、多様なコーヒー豆を揃える

もともとそうやってローカルに根付きたいというコンセプトだったので、工事も、歩いて行ける距離にいる80代の施工者さんたちにお願いして進めました。開業してからも、店を潰しちゃいけない、ということで、彼らやその友人たちが来てくれて。なので最初の一年はおじいちゃんおばあちゃんばっかりでしたよ。

−–MIA MIAでは訪れる人の世代を分断しないよう配慮しているという話も聞きました。

理恵:私とヴォーンはオーストラリアで出会ったのですが、向こうのカフェっていろんな世代の人がいて楽しいんですよね。一方日本では喫茶店に若い人が入りにくい、サードウェーブコーヒーの店にはお年寄りが入りにくい。そうでなくて、いろんな世代のいろんな境遇の人が出会える場所がいいね、といつも話していました。何より自分たちがいろんな人と出会いたいっていうのが大きいモチベーションですね。

−–空間づくりにもそれが現れているのを感じます。店の外の離れたところから見ても、初対面のお客さん同士がコーヒーを囲んで打ち解けていて、面白いなと思いました。

理恵:店の外も中もまとめ上げるような場所にしたかったんです。その真ん中にバリスタが立てるように設計しました。私ずっと建築の仕事で福祉施設を多く担当してきたのですが、デザインがバリアを作ることって結構あるなと感じてきました。例えばインダストリアルなデザインって実はユニバーサルじゃなくて、高齢の人が「おしゃれすぎて入れないわ」と。逆に、普通に福祉施設を作ると、若い人は「ダサくて入れない」となってしまったり。だからMIA MIAを作るときは、デザインが障壁にならないようにというのを考えて作りました。

バリスタのコミュニケーションの真髄

−–オーストラリアのエッセンスを大切にしている一方で、ヴォーンさんは日本の文化を本当に愛していますよね。

ヴォーン:日本は住みやすい。誰もが相手をリスペクトして、どこに行ってもみんなきちんとしてる。接客も、綺麗な服を着て…ラッピングとかすごい丁寧にやってくれるのもいいですよね(笑)。

理恵:サステナブルじゃない、って言ってますけどね(笑)。

−–日本のコーヒーカルチャーに触れてきて思うことはありますか?

ヴォーン:カスタマーサービス、つまり接客がいつもプロフェッショナルであることは日本の良いところだと思いますが、コーヒーショップに限らず、接客に何かが足りないと感じることがあります。どれだけ場所の雰囲気や品質が良くても、接客している人が心から商品やサービスを愛していなかったら、お客さんはその店に戻らないんですよね。

悲しい話ですが、会社の中で一番大事なのは接客する人なのに、低賃金で働いている。今はオンラインが売れてるけれど、やっぱり小売業は直接接客するべきだと思います。なぜなら僕たちは人間だから。だけど多くの店は本当に良い接客をしているとは言えないでしょう。

大事なのはLOVE、愛情だと思います。お客さんからお金をもらうからプロフェッショナルの接客を提供するのではなくて、自分が心から喜んで接することが大事。

理恵:提供するのは、ストーリーが語れるものだけにしよう、売れ残ってショックなものは置かない、と決めています。売れ残ったら自分たちで使う。売れ残ったらラッキーだね、という感じで(笑)。接客については、もっとパーソナルな感じを出したほうがいいよね、といつも話しています。

ヴォーン:お客さんがお店に入ってきた時に、ただメニューを見せてどうしますか?というのではだめ(笑)。バリスタの仕事はコーヒーを淹れることではなくて、コミュニティを作ること。お客さんみんなの顔や注文するものなんかを全部覚えてて、それぞれを紹介できたり、ちょっとしたことを助けたりする。

店にはヴォーンさんが選曲した曲が流れる。取材で訪れた日は、ヴォーンさん指名で常連客たちが代わる代わるダンスを披露してくれた

理恵:日本の街の中で、人と話せるとことってなかなかないじゃないですか。とにかく話したいって時に選んでくれる場所になればいいなと思っています。そうすると住むのが楽しくなると思うんですよね。あともっとお節介にした方がいい。好きな人同士は繋げた方がいい。

ヴォーン:別にそれは仕事の話じゃなくていいんです。ちょっとした趣味だったり気が合いそうだな、ということを話題にしたり。その人の笑顔のため。みんな何かしら悲しんでることとかあると思うけど、住んでる場所の知り合いが一人増えて少し元気が出たりして、ちょっと楽しい一日になる。

理恵:ヴォーンってそれがすごい上手なんです。ずっと自分が話してるんじゃなくて、きっかけだけ作って離れる。

––そうですね。色々なところでよくヴォーンさんの人柄が語られますが、実際にきてみるとお客さんを主役にしてくれる場所だなと感じます。

理恵:災害が多い日本で、周りの人と繋がっているってすごく重要だと思うんですよね。コーヒー屋さんもその可能性がある場所。そこで顔見知りになっておけば、核家族で周りに親戚がいなかったりしても心強いんじゃないかと思います。

”a part of community”

––ヴォーンさんが店の前の道を歩いていく人たちに話しかけて駄洒落を飛ばしたり、営業で東長崎に来ているサラリーマンにご飯どころを勧めたりしているのも印象的でした。お二人が考えているローカルコミュニティというのは、MIA MIAの店内で完結するものではないのですね。

ヴォーン:私たちは、自分たちがコミュニティの一部であるということをとても大切に考えています。だから毎日、ここから200メートルの駅に向かって歩いていくみなさんに挨拶するんです。お客さんだけでなく、全ての人たちにです。ここで店をやるからには、この街をクリーンで暖かい空気にしていく責任があると思っていま。色々なお店や人々との関係がある前提に、僕たちが地域の一部であることを忘れてはいけないと思っています。

理恵:みんな忘れてるけどそれってすごく重要。結果的に収益も上がるので。ひとつの商売で一人勝ちするのって全然持続的じゃなくて、コミュニティとして盛り上がっていった方がいいし、コミュニティの一つの居場所としてやっていかないと。それは、コロナで多くの人が気付かされたことなのではないでしょうか。地域のサポートがないお店は本当にきつかったと思います。

ヴォーン:僕たちよく話しているけど、いい店は本当に少ない。かっこいいお店は多いけど、やっぱり重要なのはLOVE、愛があること。LOVE、わかりますか? THE LOVE。

理恵:またそうやってまとめようとする(笑)。ジョンレノンじゃないんだから(笑)。

撮影のため、平日はシェアオフィスとして使っているI AMのギャラリースペースを開けてくれるヴォーンさん
ギャラリー前のスペースでは菜園を始める予定だそう

––今後の展望があれば教えてください。

理恵:ローカルでトライしていきたいことがいくつかあって、東長崎に他にも拠点を作りたいと思っています。カフェの持つポテンシャルみたいなものを示すならば、ある程度群として居場所ができて、街全体が盛り上がっていく情景が描けるといいなと思っていて。偶然大家さんがいくつか土地を持っていらしたりと出会いがあって、やらせてくださいと提案しているところです。カフェがあって、働く場所と展示する場所ができたので(ギャラリーI AMは、平日はシェアオフィスとして機能している)、次は長く滞在できるホステルみたいな場所や、食事がしっかりできる場所や、音楽を楽しめる場所など、イベントができるようなところを考えています。徒歩圏内で色々な拠点を作ることで、東長崎の面白いところをもっと表に出して、外から人が来たら良いなと話しています。もともとあるものと競合するつもりはなくて、今ないもの、街にない、これがあれば面白いなというものや、この世代が今来ていないから引き付けたいな、というのを大家さんや商店街の人たちと話しながら作っているところです。

MIA MIAという場所、そしてアリソン夫妻の魅力に惹かれて始まった今回の企画。ローカル・コミュニティをテーマに取材を進めていったが、日本の接客にまつわるヴォーンさんの話は、店対客という関係性にとどまらず、個人と個人とのコミュニケーションや関係性においても重要な態度であると感じた。MIA MIAで彼らやそこに集まる人々に接すると、彼の言わんとすることを実感することができる。MIA MIAの店の内側と外側、そして街に波及する広がりから、アリソン夫妻の心遣いや理想をより感じさせる取材となった。感染対策下で取材に応じでくれた夫妻とMIA MIAの皆さんに感謝したい。

Photography: Nathalie Cantacuzino

MIA MIA
https://www.mia-mia.tokyo/
https://www.instagram.com/miamia_tokyo/

I AM
https://www.instagram.com/iam_tokyo_official/

木村びおら

Viola Kimura

出版社勤務を経てエディター/ライターに。雑誌や書籍、WEBなどで編集・執筆をするほか、イベント企画やPRなども手がける。現在は医療専門誌の編集の傍ら、教育、福祉、デザイン、ものづくり、食などのコンテンツ制作に携わっている。写真家の夫と2人の子どもと4人暮らし。

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