自由なコーヒー。
一杯のコーヒーに、無限の可能性を感じる人たちがいます。常識や流行にとらわれず、直感に従いながら、目の前の人やもの、ことに向き合う人たち。ロースター、バリスタ、ときに料理人、ビジネスマン、もしかしたら茶人も。場所や職業を問わず、さまざまな形でコーヒーに関わる彼らは、どのようなことを考え、その道を歩むことになったのでしょう。彼らの営みを通じて、コーヒーが持つ自由な側面を切り取っていきます。
TOP画像:Overview Coffeeの日本での展開や、Parkletを手がけるTerrainの(左)Max Houtzager、(右)岡雄大氏
記事前編では、昨年日本での展開が始まったOverview Coffeeについて、日本代表の増田氏に話を聞いた。後編では、Overview Coffeeをはじめ数々のプロジェクトを展開するTerrainのMax Houtzagerに、これまでの活動についてと、クリエイティブディレクションを手がけた東日本橋のカフェ・ベーカリーParkletについてインタビューした。

自然をフィールドにしてきたからこその、土地の個性を活かす場所づくり
――ここからはMaxに話を伺っていきます。ここで表現したことについて、ご自身のバックグラウンドも含めて教えていただけますか? まずはクリエイティブディレクターとしてのご経験について。出身地のカリフォルニアから日本へ来ることになった経緯は?
Max:僕はこれまで、自然の中で過ごす経験を多く重ねてきました。そうした経験や、日本へ来るようになったことが、『TERASU』や今のさまざまな仕事につながっています。
10代の頃はスノーボードやマウンテンバイクに取り憑かれ、山の中を走り回っていました。マウンテンバイクのプロとして活動していた時期もあります。ですが義務感でトレーニングをすることにうんざりしてしまい、大きな怪我をしたこともあって、カリフォルニアの大学へ進学しました。そこではメディアスタディーズを学び、映像などを本格的に勉強しました。必修科目の語学で日本語を選択したことが、日本と行き来するようになったきっかけです。
日本へは13歳の時にスノーボードをしに来たことがありました。北海道の雪は最高でしたし、食文化や暮らしについても興味深く感じたことが印象に残っています。


――日本へ留学もしながら、在学中からクリエイティブの仕事をしていましたね。『TERASU』についても教えてください。
Max:語学もクリエイティブも、仕事をした方が実体験として学べると思いました。9年前に日本で働き始めて以来、学生の頃から二拠点で働いていましたが、コロナ禍がやってきて、行き来ができなくなって。Terrainの立ち上げのタイミングでこちらに留まることにしました。
『TERASU』は山、海、食文化を軸に、調理器具の製作や自社出版などを行うクリエイティブスタジオ。あらゆる“生”に着目し、新しい物事の捉え方を照らし出すことを目的としています。学生のころ真夜中に起きて急に思いついたプロジェクトです。スノーボーダーの写真家を始め、尊敬する面々に話したところ、絶対やるべき、サポートするよと背中を押してもらって。いろいろなフィールドの職人、アーティスト、シェフと共に、彼らが活動することにより得た経験をもとに出版物や調理器具を形にしています。


――そうした経験がここでも生きているのですね。Parkletでは、どんな表現を心がけたのでしょうか?
Max:英語で「Park “let “」は「公園“ちゃん”」とでも言うようなニュアンス。公園の延長線上にある、自然を感じられる、小さな公園、というイメージです。
カリフォルニアでも日本でも、親しくなる作家やクリエイターは、自然そのものを表現したり、素材をそのまま生かしていました。ベイカーの友人についても、パンを焼く行為そのものが同様の表現に思えました。切り株をそのまま活用したベンチテーブルや、サワードゥブレッドをはじめ、Parkletのものの仕上がりや味わいは、そうした表現に基づいています。
――カリフォルニアと日本の自然と文化。そしてこの東日本橋の街の文化とが、この場で融合していくのが楽しみです。場所作りにおいてこだわった点は?
Max:美味しいパンとコーヒーがあるところには必ず人が集まり、コミュニティが生まれていく。他の所より美味しいとか、おしゃれでこだわりのあるパンとコーヒーがあるかといったことより、新しい一貫性のあるコミュニティを生み出していくならば、場を自分達で作らなければならないと考えました。

――それで集まったのが、今のParkletのメンバーなのですね。こうした場所でコーヒーが果たす役割について、Maxが考えていることを教えてください。
Max:西海岸、特にサンフランシスコでは、コミュニティの色や町の文化は、いいベーカリーのようなところで、アーティストの表現を通じて知ることができます。例えば、友人であるアーティストのIdo Yoshimotoは、巨大な木を半分に切ってSolange Roberdeauというアーティストと一緒に染めてタルティーンベーカリーの外観に飾りましたが、それがずっと街の象徴的な風景となっています。「ある場所の文化を知りたいならば、ローカルたちが通う飲食店にいくのが一番だ」と岡本太郎も言っていましたが、僕はベーカリーに関しては本当にその通りだと思っています。つまり、いいコーヒーがあるところでは街の魅力を見ることができる。

――ここで店自体やアートを通じてそんな街の風景が映し出されていくのですね。今後はこの場所を訪れる人に、どのように使ってもらいたいですか?
Max:いろいろな人に、いろいろな使い方を。今はサワードゥブレッドとコーヒーをあの切り株でいただくというのが、多くの人が目指す体験となっています。ですがそれに限らず、例えばフラっと立ち寄ってパン一個、ワイン1本を買って帰るとか、スコーンとコーヒーを立ってサッと食べていくとか。暖かくなったら、公園へ出てピクニックを楽しんだり。先日は年配の女性が友人を2、3人連れて昼間から来て、ワインを飲みながらゆっくりして行ってくれて嬉しかったですね。今は週5で夕方までしか開けていませんが、いつか週7で、夜営業までやりたいです。
――それは楽しみです。最後に、TerrainやMax個人として今後やりたいことは?
Max:Terrainとしては、今後も柔軟性を持っていきたいです。このままだとただの飲食グループに見えるかもしれませんが、クライアントワークもやるかもしれないし、メディアや紙媒体など色々やっていきたいです。
個人的には、今やりたいことは二つで、一つは公園を作るようなこと。Parkletにも共通する要素がありますが、もっと外の地形を活かして作り込んでいくようなことを。もう一つは、美術館関連の何かを。展示のキュレーションか、形は色々あると思いますが。
――Max個人、TERASU、Terrainと、それぞれの立ち位置からの展開が今後も楽しみです。これまではメディア関連での活躍を見てきましたが、Parkletのような立体的なものづくりも応援しています。今回はありがとうございました!



自然を感じたい、自然と共にありたいという欲求は誰しもが抱くもので、さらにそれを日々の暮らしに落とし込んでいく作業は時に難しいものだが、Terrainチームはそれを都市と自然という文脈の中で実践していた。そこには彼らがこれまで自然と向き合いながら手がけてきた、クリエイティブの積み重ねがある。
彼らはあらゆる自然環境や地域に触れてきたことで、それぞれの土地の風土や、個人、コミュニティの在り方に対して寛容で、それらを尊重し、生かしていた。
状況を観察し、次々に巡り合わせを生かしていく彼らの仕事の仕方や生き方そのものが、まるでスノーボディングしているかのように感じられた。

木村びおら
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