道具が拡げる、お茶とコーヒーの可能性。

道具が拡げる、お茶とコーヒーの可能性。

Satén japanease tea

2019.04.08

「人々の日常に溶け込む日本茶を届けたい」。昨年春、西荻窪にオープンした日本茶スタンド Satén japanease tea(以下Satén)は、 街並みに溶け込み、それを体現しているように思える。

Saténは、二人のプロフェッショナルが組んで生まれた、お茶とコーヒーの新境地。小山和裕さんは、お茶とコーヒーのスタンド、UNI STANDを切り盛りしてきた、日本茶の新たな可能性を切り開いた第一人者。藤岡響さんは、もともとブルーボトルのバリスタトレーナーで、コーヒーの第一線を引っ張ってきたひとり。

Saténでは、日本茶の美味しさを最大限に引き出したドリンクが季節ごとに考案されている。看板メニュー「抹茶ラテ」や「ほうじ茶ラテ」は、緻密な調整がものを言うお茶とコーヒーのスペシャリストが組んだからこそ叶うメニュー提供だ。

開業から一年経った今、二人は新しい試みの最中にいるという。道具の開発だ。抹茶ラテをはじめとした、これまでなかった新しいドリンクの考案に伴い、茶器などの道具の機能やデザインを見直し、ORIGAMIとの共同開発を進めている。

そんな二人に、Saténを始めることになった経緯と、走り始めて見えてきた風景、お茶とコーヒーのこれからについて、話を聞かせてもらった。

小山さん(TOP画像)と共にSaténを率いる、バリスタトレーナーの藤岡さん

「おいしい抹茶ラテをつくろう」

藤岡
きっかけは、小山の「おいしい抹茶ラテをつくろう」というひと言でした。僕はコーヒーの仕事の傍ら、小山が立っていたUNI STANDへ足を運んでいて、コーヒースタンドで出せる抹茶ラテを作りたいと話していたんです。それで僕が前職を辞めるタイミングになったときに、一緒に店をやろうということになって。

抹茶を使ったドリンクやスイーツはカフェやコンビニなどで気軽に楽しめるようになりましたが、本格的な抹茶の味を感じられる機会がなかなかありません。

小山
そこで、茶葉や豆の選び方、抽出し入れる方法、提供の仕方など、僕のお茶に携わってきた経験と、藤岡のコーヒーの専門性を活かしつつ、抹茶をはじめとした、本物のお茶を味わってもらえる場所を作りたいという話になったんです。

店内は日本の茶室やコーヒースタンドの要素もありながら、どこか北欧の雰囲気も。

窓が大きく開け放たれていて、風通しが良く縁側で過ごしているような感覚を楽しめますよね。親しみやすく堅苦しさのない店でありながら、本格的な味わいに出会えるのがSaténの魅力だと思うのですが、お店ではどんなメニュー開発と提供を?

小山
茶葉は香りが良く品質の高いものを10種類厳選していて、季節ごとに2種類ずつを使って提供しています。

茶葉はシングルオリジン(季節ごとに単一農園・単一品種の茶葉を使用する)で提供するなど、小山さんと藤岡さんだからこそのこだわりや、一種の使命感のようなものを感じます。

小山
お茶は、同じ産地や品種でも、作り手や年によって味が変わってきます。農家さんそれぞれの歴史や作り方が味に表現されているんですね。それをダイレクトに味わうことができるのが、シングルオリジンなんです。

藤岡
ここは日本茶スタンドなので、コーヒーはシンプルに味わえるものを。飲みやすいブラジルとグアテマラのブレンドをお出ししています。他にも、ジンやラムなどのお酒を使ったドリンクなどもあります。

ORIGAMIの展示会でも提供された、看板メニュー「抹茶ラテ」

新しい道具の必要性

これまでになかったドリンクを生み出すのに、道具選びはどうしているんでしょうか?

小山
既存の製品を使っていますが、もっと使い勝手よく、美味しくドリンクを淹れるために、改良が必要だと感じています。

抹茶を点てるのに使っている「湯冷まし」。

小山
例えばこの「湯冷まし」は、本来その名の通りお茶に使うお湯を冷ますために使われるものなのですが、うちではこれを抹茶を点てるのに使っています。抹茶ラテに使う量を点てるのにちょうど良いサイズなんですよね。

抹茶を注ぐ際に使う「片口抹茶茶腕」(写真左中央)。

小山
こちらの「片口抹茶茶腕」と呼ばれる茶器も、お茶を大勢に振る舞う際に使われるものなのですが、抹茶をマグへ注ぐ際に使っています。

藤岡
いずれも抹茶ラテ専門の器具ではないため、茶器や道具を変えたいと考えているタイミングで、ちょうどORIGAMIを扱っているケーアイの加藤さんが当店へいらして。それで茶器の開発を検討しているという話をいただき、自分たちの用途に合わせて使いやすい茶器を開発しようということになったんです。

小山
茶器のメーカーさんも、昔ながらの決まった作り方をしていたり、分業していて柔軟にやり方を変えたりするのが難しいようなんです。こうして新しく茶器を考えさせていただけるのはとても面白くて感謝しています。

茶器の完成まで時間がかかるかもしれませんが、とても楽しみです。

道具の開発を通じて、Saténとしてどのような役割を担っていると感じていらっしゃいますか?

小山
新しい価値の提案や、これまでと違う角度からのアプローチの面白さを伝えていけたらと思っています。

来場者との会話が絶えなかったORIGAMI展示会場にて。

本物の抹茶の美味しさを知ってほしい

新しい道具を使い始めることで、また新しい味わいや、お茶の楽しみが見えて来るかもしれませんね。
他に、Saténとしては今後どんな展開を?

小山
実は最近、コーヒーショップからのお問い合わせが多くなり、実際に抹茶をはじめ、うちの日本茶を提供してくださるお店が増えてきました。

藤岡
コーヒーショップが増えるなか、産地と時期を厳選したお茶を扱うところは本当に少ないんですよね。僕らは店舗経営の傍ら、様々なコーヒーショップさんたちともお仕事をさせていただいてるのですが、そうしたところとのご縁の中で、コーヒーの領域でも美味しいお茶を味わってもらえるよう、淹れ方の提案を含めて機会を作っていけたらと考えています。

小山
日本茶専門店だけでなく、Saténをはじめコーヒーショップやその他のお店などで、日本茶を提供するお店が増えれば、日本茶に出会う機会も増えます。日本ならではの味と文化を発信する機会を増やしていければ良いなと思っています。

西荻窪の店舗でも、季節ごとにさまざまな味わいを体験できるが、あなたが日常的に利用するコーヒーショップなどでも、Saténを楽しめる日が来るかもしれない。

新しい茶器が実際に完成して使い始めたとき、これまでとはまた違った風景が見えてくることだろう。さらなる新たなお茶とコーヒーの世界へ、また私たちをいざなってほしい。

photography: Naoto Date

木村びおら

Viola Kimura

出版社勤務を経てエディター/ライターに。雑誌や書籍、WEBなどで編集・執筆をするほか、イベント企画やPRなども手がける。現在は医療専門誌の編集の傍ら、教育、福祉、デザイン、ものづくり、食などのコンテンツ制作に携わっている。写真家の夫と2人の子どもと4人暮らし。

このライターの記事

PICK UP