ORIGAMIを探しにいこう。Vol.1 ブランドパートナーが語る「進化していくコーヒー道具」

ORIGAMIを探しにいこう。Vol.1 ブランドパートナーが語る「進化していくコーヒー道具」

TRUNK COFFEE オーナー/バリスタ 鈴木康夫

2019.06.07

世界的なバリスタの大会であるワールドブリュワーズカップ2019に出場し、見事優勝を飾った中国のDu Jianing(ドゥ・ジャーニン)さん。彼女が大会で使用したのは、ORIGAMIのドリッパーでした。

ORIGAMIの販売から5年たった今。ORIGAMIをつくる人たちに、「ORIGAMIの何がすごいのか?ORIGAMIってどんな風に作られているのか?」などの疑問をなげかけ、ORIGAMIブランドを紐解いていく連載です。

第1回は、開発当初からブランドパートナーとしてORIGAMIに関わってきたTRUNK COFFEEのオーナー兼バリスタの鈴木さんにお話を聞きました。

固定電話はスマートフォンに進化しているのに、ドリッパーはなぜ進化してない?

ドゥさんがORIGAMIドリッパーを使って、バリスタの世界大会優勝。どう感じられましたか?

鈴木 
世界大会は、目指していたところだったので嬉しいですね。コーヒー事業をやったことがない、ケーアイと光洋陶器という会社が、ここ5年弱で世界一のドリッパーを作ったのは、はっきりいって奇跡だと思います。世界に通用する技術を名古屋から世界に魅せられたこと、喜びを感じますね。正直、コーヒーも陶磁器も、たかがコーヒー、たかが陶磁器。でもされど。じゃないですか。されどを、しっかり示せたのが嬉しいです。

そもそも、なぜドリッパーを作ろうと思ったのでしょうか。

鈴木
今のスタンダートなドリッパーって、形状が何十年も変わっていないんです。固定電話がスマホに進化しているのに、ドリッパーは何十年も同じ形。それは、おかしいなと疑問で。コーヒーの世界は、どんどんロジカルに、科学的になっています。だからこそ、道具への向き合い方も道具自体も変えていかなくちゃって思っていました。

ORIGAMIドリッパーの制作現場を見てきましたが、ひとつひとつ手作業で驚きました。

鈴木
とにかく機能性にこだわったフォルムなので、作るのは本当に大変ですね。熱伝導がスムーズかつ、熱をキープする厚さと薄さ。抽出速度も計算されています。だからこそ、安定して美味しいコーヒーがだせるんですよ。


僕はああでもないこうでもないって言うだけなんで、答えてくれた作り手はとてもしんどい作業だったと思いますよ(笑)。でも、どうしても譲れないっていう部分に、光洋陶器のみなさんがとことん向き合ってくれて。特にデザイナーの松原さんが毎週のように通ってくれて、テストして、修正しての繰り返しでした。作り手のみなさんの努力があって完成したと思います。

機能性だけじゃないドリッパー。

バリスタ以外も使っていいんでしょうか?なんか難しそうなイメージです。

鈴木
もちろんです。機能性だけでは、新しいドリッパーにはならないと思っていました。キャッチーで、見た目もかわいいって思わせないといけない。テーマは、『渋谷とか原宿のギャルたちにコーヒーを淹れてもらうには、どうしたらいいか』でしたよ(笑)。

ドリッパーに「かわいい」って不思議な感じです。

鈴木
「かわいい」っていうキーワードは、重要だと思っています。見た目を気に入って購入してもらって、実際に機能性もよければ完璧。コーヒーは、プロだけが淹れるものではダメなんです。もっと日常的なものです。だからこそ、どれだけコーヒーに関わる人を増やせるかを常に考えています。コーヒーファンの中でORIGAMIファンを作るのではなく、コーヒーファンである母数をどれだけ増やすか。そのためには、どんなことをすればいいか。常に考えています。それが業界の発展にもつながるはずです。

道具は、コーヒーのおいしさを引き立てる。

コーヒーは味に違いがわかりにくい部分があって難しいイメージでした。カッピングなどを経験して、ちょっとずつわかってきたところです…。

鈴木
コーヒーは見た目が全部同じなので、難しいですよね。でも、コーヒーはより気軽に飲んでよい飲み物だと思っています。だからこそ、飲む人と接する道具は重要です。暖色系のカップで飲むとより果実感を感じますし、ダーク系のカップで飲むと苦味を感じる。軽いカップで飲むと、液体も軽やかに感じ、重めのカップで飲むと、ボデイを感じてしっかりめの味に感じることもあります。

おお。なるほど。それは考えたことなかったです。

鈴木
例えば、ORIGAMIのアロママグも一杯のコーヒーを最大限おいしく感じてもらえるように作っています。機能性の部分でいうと、コーヒーの香りを閉じ込めるカップの口の大きさ。口元でマグカップを傾けたときの、香りを一番よく感じる角度。口元の分厚さなんかにまで、計算しています。

すごい。

鈴木
他社のカップの、口元の分厚さを全部ミリ単位で測りました。どの厚さがベストか調べ尽くしたんです。だいたいのカップは、持ち手とボディの既製品の組み合わせで作られることが多く、どのように飲んでほしいかまでは考えて作られていません。普通のマグカップ以上の付加価値を作れないかと考えぬきました。

名古屋のブランドから世界のブランドORIGAMIに。

今後、ORIGAMIは、どう展開してゆくのですか?

鈴木
愛知・岐阜発のORIGAMIを、日本にとどまらず、どう海外に展開してゆくかは今も考えています。名古屋発のものは、ほとんどないので。地方だからこそ、面白いことができると思っています。ORIGAMIは制作が大変ですし、作る数が限られているからこそ、作り手と使い手の距離感が大事です。使い手の自分だからこそ見える視点で、作っていきたいですね。

また、コーヒーと地域がどうつながるか、が僕のテーマです。ある意味自己満の部分もありますが、ずっと大事にしてますね。TRUNK COFFEEの二号店は、仏壇街にあるので、仏壇職人さんにエスプレッソマシーンに蒔絵を施してもらったんですよ。良い技術は、他のものにどんどん展開ができます。僕は、コーヒーはコミュニケーションツールにすぎないと思っているので、コーヒーをきっかけに何を生み出せるか。それが、キーだと思います。世界共通であるコーヒーを通して、地域にある技を見せるチャンスをつくってゆきたいですね。

 

一般的な視点からみると、普遍的なものにみえるドリッパーやマグを「本当にこの形でいいのか?」と常に考える姿勢と視点は、まさに職人でした。Vol2では、制作が難しいと言われているORIGAMIドリッパーの制作現場の取材レポートをお届けします。

TRUNK COFFEE
http://trunkcoffee.thebase.in/

稲垣 佳乃子

Inagaki Kanoko

学びと食の企画・制作会社「KUUMA inc.」と、福祉実験ユニット「ヘラルボニー」に所属。2019年からはWith barista編集長の「LANCHI.inc」にも顔を出す。神戸と東京を行き来し、ときどき名古屋で途中下車する生活を。コーヒーは、朝昼晩の3杯が基本。好きな食べ物はわかめ。@fugusushijapan

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