こんにちは。ORIGAMI JOURNAL 編集部です。
今回のゲストは、中国 南京のカフェ「UNiUNi」でバリスタとして活躍されている杜嘉宁(ドゥ・ジャーニン 以下ドゥ)さんです。実はwith BARISTAでのインタビューは2回目。前回お話を聞いたのは、2018年のブラジルで開催されたワールドブリュワーズカップの開催前でした。翌2019年にボストン大会で見事優勝し、世界チャンピオンとなったドゥさん。


チャンピオンになることで、何が変わり、何が変わらなかったのか。大会中の様子と合わせてお話をお伺いしました。
前回のインタビューはこちらから。
「哲学も物理学も、まったく知らなかった世界もコーヒーから繋がっていく。」
http://with-barista.origami-kai.com/cms/with_barista/1182-2/_

コーヒーを楽しむ空間を、競技中につくれないか。

前回の取材は、中国の国内大会が終わってブラジルでの世界大会の直前でした。あれから2つの世界大会を終えた心情を教えてください。
ブラジル大会はとても複雑な心境でした。決勝入りできず、ベスト6にも入れませんでした。あのときは優勝とか、結果をあまり考えずに臨んだのですが、受賞できなかったことにすごく悔しさを感じたんです。私がその前に世界大会に出たのは2016年。そのときよりレベルアップしているはずだったのに、ダメだった。
だからこそ、そのあとのボストン大会では、いまの自分の最大限を試そうと鍛え直して挑戦しました。
ボストン大会でのプレゼンテーションではどのように工夫されたのでしょうか?
淹れ方は基本的に同じです。ただ、プレゼンテーションの流れを大きく変えました。ブラジル大会では説明が少し複雑だったかもしれないと感じたので、ジャッジ(審査員)が味に集中してもらえるように試みました。

それはどのような試みだったのですか?
これまでのプレゼンテーションでは、コーヒー豆の種類や考え方を説明してから、コーヒーを淹れ、ジャッジに渡していました。これだとコーヒーを渡すのが制限時間ギリギリになるので、ゆっくり味わってもらうのは難しかったんです。
私は、本来のコーヒーの楽しみ方のように、カフェでバリスタとお客さんがコミュニケーションする形を目指しました。プレゼンテーションのちょうど真ん中のタイミングでコーヒーを渡し、飲んでもらいながら、温度の変化によって細かく風味が変化することを説明をしました。ジャッジ自身が、味の変化を体感できるようにしたのです。

さらに、自分も一緒になってコーヒーを飲むことで彼らの緊張感をほぐそうとしました。競技会では、選手はもちろんですがジャッジもすごく緊張しています。彼らに、ほんのひと時でもおだやかな気持ちになってほしかったんです。これはコーヒーが持つ本来の力です。
ジャッジと一緒にコーヒーを味わったのですね
そうです。ただ、そのためには時間内に一人分を余計に作る必要があります。通常、ブリュワーズカップでのプレゼンテーションで作るコーヒーは3杯ですが、私の場合は4杯。さらに自分もジャッジと同じようにコーヒーを飲みながらプレゼンをするので、早く提供する必要がありました。だから両手を使って、同時に4杯を作る技術を磨きました。これはなかなか大変な訓練が必要でした。

私は左利きなので、両手でやると右手の方の位置がどうしても安定しないんです。そこで専用の道具を自分で作りました。ホウキの肢を使って、その両はしのポットをぶら下げて。これは効果があったと思います。

カンフーの特訓みたいですね。
私もそう思いました(笑)。色々な練習の方法を、自分たちで考えて編み出していったんです。
満足しきることはない。

そして2019年のワールドブリュワーズカップ優勝。世界一に輝いたことで、どんな変化がありましたか?
まずこの業界の人が、私のことを知ってくれるようになりました。中国だけでなく、海外での知名度も上がりました。みんな私のコーヒーの考え方とか淹れ方をみて、これから何をしたいとかに興味を持ってくれている。各地で出張やセミナーに参加することも増え、ありがたいことにとても忙しいです。
でも、美味しいコーヒーを淹れるためには、自分をもっともっと磨かないといけないと思ってます。チャンピオンになったからこれで満足という感じはありません。
やりたいことがどんどん出てきているんですね
世界大会が終わってひと段落した感じはありますが、自分にとってはまだまだ開拓していくことがたくさんあります。カップの開発ひとつをとっても、自分が開発に関わることで今まで見えていなかったことも出てきましたし。これからもっと美味しいコーヒーを出すために、新しい商品を作ったり、この業界のためにできるだけのことをしたいと考えています。

世界大会ではドリッパーを使っていただきましたが、今後のORIGAMIにはどんな期待を寄せていただいているのでしょうか。
私がドリッパーに求めるのは、お湯とコーヒーの粉が接触するときの抽出が一定であり、均一であること。それを可能にさせるのが、フラットのウェーブ型のペーパーです。その紙を使うドリッパーのなかでは、ORIGAMIが最も私に合っていました。
私が働くカフェでも、これから全てORIGAMIに切り替える予定です。特にドリッパーが注目されていますが、カップの良さも実感してもらいたいですね。あとはボストン大会に参加したときに使ったピンクのオリジナルカップ! あれは私のアイデアで作ったものだったので、とてもオススメです。今後もORIGAMIチームと連携して面白い新しい商品を開発していきたいです。

最後に、バリスタの方で、特に競技の世界を目指す方にアドバイスやメッセージをお願いできますか?
バリスタという職業は、実際のところ結構しんどいところもあります。特に競技大会に向けたトレーニングを続けていると、なんでこんなことをやっているんだろうと疑問を抱いたり、退屈に感じることも出てきます。私も何度もそう思いました。
でもやり続けていると、新しい発見に出会うことがあるんです。そこで意欲が生まれる。そして、それを繰り返し続けられるのは、自分がバリスタになりたいと思ったきっかけ、コーヒーを作りたいと思った原点の存在です。それを忘れずに続けてほしいと思います。

世界大会という大きな節目を超えたからなのか、終始やわらかな表情が印象的でした。今回のインタビューは、ORIGAMIのブランドパートナーでもあるトランクコーヒーの鈴木さんも同席の上で実現しました。

ドゥさんは鈴木さんのことを「長年の友人みたいな人です」と言います。お互い第二言語である英語を使いながらですが、バリスタ同士ですぐに通じるとのこと。あらためて、コーヒーには国境がないことを感じさせるワンシーンでした。

ドゥさんが所属するUNiUNiは、中国の南京にある本格ドリップコーヒーとエスプレッソコーヒーを提供するカフェです。外観もすごくオシャレで、お店の前で写真を撮る人も多いとか。南京に訪れた際はぜひお立ち寄りください。
UNiUNi web
https://weibo.com/u/5121061202

加藤信吾
Kato Shingo
ORIGAMIのブランド設計に外部パートナーとして携わるなかで、様々なバリスタと出会い、各地のスペシャルティコーヒーに感動し、気がつけば一日2杯のコーヒーが欠かせない日々を送る。
twitter:@katoshingo_
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