埼玉県熊谷市の最北に位置する妻沼に、創業90年を超えて地元に愛される和菓子の老舗「沢田本店」がある。敷地内には店舗だけでなく、パン工房、農園、ピザ窯、遊具エリアもあり、普段から地域の人の憩いの場所となっている。
お菓子とパンのお店が並ぶエリアを離れ、裏道を抜けると、そこにはどこか懐かしさを残した古民家「メヌマハウス」が現れる。沢田本店との雰囲気の違いに戸惑いつつ、中に入るとそのお洒落な空間にもう一度驚くに違いない。

この古民家をプロデュースしたバーズさんは、「BARZ」で知られるマルチ作家。絵・写真・音楽・造形などを幅広く手掛ける、熊谷でも知る人ぞ知る存在とか。作家として活動をしている中で、なぜカフェをプロデュースすることになったのか。そのきっかけからお話をお聞きしました。


コーヒーの世界に入られたのはどうしてですか?
きっかけは、(熊谷市)星川にあるホシカワカフェさんのお手伝いでした。ホシカワカフェの鈴木さんとは音楽仲間を通じて知り合って。こんなおいしいコーヒーを作れる人がいるんだと驚いたんです。それからお店を気に入って通うようになりました。
鈴木さんも元々カメラが好きで、僕も写真を撮るので作品を見てもらったりしていて、それがきっかけで、「窓際の小さな写真展」という展示をホシカワカフェさんでやらせてもらったんです。
そんな風な関係あって、ある日鈴木さんから「僕の写真を撮ってくれませんか」というオファーがありました。併せてポスターやショップカードも作れないかと。たしか2013年頃だったと思います。
ちょうど、鈴木さんができるだけ浅煎りで苦くない、フルーティーなテイストのコーヒーを作るために焙煎をはじめられた頃でした。その時に「コーヒーは果実だ」というポスターを作ったのがきっかけで、その後ホシカワカフェのデザインなどを任されるようになったんです。カードとかパッケージとか、そういった諸々ですね。
ホシカワカフェは埼玉県熊谷市のスペシャリティコーヒーを提供するカフェ。登場する記事はこちら。

2年くらいイベントもずっと鈴木さんに同行されていたとお話し聞きました。
そうなんです。そのうち熊谷の片田舎で作っているはずのパッケージが東京の代々木公園のイベントや、東京コーヒーフェスティバルですごく好評をいただいて。僕ら通用するんだ、この感じいいよねって鈴木さんとも手ごたえを感じていました。
僕はバリスタではないのでコーヒーは淹れませんでしたが、パッケージを作ったときに考えた、色へのこだわりとか、鈴木さんのエスプレッソの美味しさとか、そういうものを精一杯伝えました。販売促進には一役買ったんじゃないでしょうか。
当時は、自分のデザインしたパッケージと鈴木さんのコーヒーがセットアップでお客さんに届いていくのが本当に幸せでしたし、できるだけイベントにはついていって自分の仕事を高めていきたいと、それがエネルギーになりました。

でもその頃は、パッケージのデザイナーであり、応援団のようなスタンスですよね? どうしてご自身のお店を持つようになったんですか?
実は、ホシカワカフェのポスターをやってから、ありがたいことに「あのポスターを誰がやったんだ?」って地元で評判になって。僕は自分の仕事を紹介するサイトなどは持っていなくてずっと口コミでやってきたんですが、ポスターを見たベーグル屋さん、熊谷の老舗の郷土菓子屋さん、街のメガネ屋さん、そこから市と繋がったり、口コミが口コミを呼んでいったんです。その流れの中で、大きなターニングポイントになったのがこのお店がある「沢田本店」さんです。
地元の方に愛される和菓子・洋菓子のお店と聞きました
はい、創業90年を超える老舗です。元々は国宝のお寺の近くに蔵を利用したお店(大福茶屋)があるんですが、そこを新しくしようというときに声をかけていただいて改装と企画をさせていただきました。それをお客さまと会社の経営陣の方にも評価いただいて、年間でデザインのお手伝いをすることになったんです。

そんな中、今のワイズカフェの建物、メヌマハウスと言うんですが、この建物(青木さんの家)が空いて沢田さんが借りれることになって。それを聞いたときに「ここでスペシャリティコーヒーが楽しめたらいいな」って思ってプレゼンしたんです。そしたら採用されて。すごいですよね、他にもたくさんの案があったのに。感謝しかありません。
改修は地元の大工さんにお願いしました。この大工さんは本当に僕のことを分かってくれる方で、最初はたくさん怒られましたが、手取り足取り教えてくれて今は頼れる兄貴分です。カフェ部(ワイズカフェ)のオーナーバリスタは、ミニFM局で僕がやっていた番組に出てくれた大武優くん。彼、プロのドラマーなんですよ。でも話の中で「コーヒー淹れるの得意なんですよ」って言いながらカバンから豆を取り出したらまさかのホシカワカフェの豆。「そのパッケージ俺やってるよ!」って盛り上がっちゃって(笑)。

すごい縁ですね!
はい。で、彼が淹れてくれたコーヒーが本当に美味しくて。そのちょうど3ヶ月後ぐらいにメヌマハウスの話が出てきて、すぐ彼に連絡しました。それがワイズカフェ。おかげでいつでも彼の美味しいコーヒーが飲めます。僕は同じ空間でセレクトショップ abを開きました。

実際の運営はどのように?
まず関係性として、建屋のメヌマハウスは沢田本店さん所有で、その企画・運営を僕が任されている、というカタチです。大武くんがオーナーバリスタのワイズカフェ、僕がオーナーのセレクトショップabはそれぞれが責任を持って運営しています。
やり方については、みんなで相談しながら考えているんですが、沢田本店の社長からは基本的には任せてもらっていて、その懐の深さには本当に感謝しています。一番は町のために、お菓子屋さんとしてみんなが楽しく取り組めたらいい、というのが沢田社長の心意気だと思います。

メヌマハウスと沢田本店さんの印象はずいぶん違いますが、いい関係性で繋がっているんですね
沢田さんのお店はどんな人でも入りやすいお店を目指していますが、こちらはわざと変えています。感度の高い人というか、アンテナを張り巡らせている方にも来て欲しくて。その上で、カジュアルに入れる沢田さんのお店と良い相乗効果が出たらと考えています。
お店では沢田さんのお菓子をだしますし、すぐ前の畑で、沢田さんのお店では有機栽培の野菜を作っているんですが、そこで収穫されたものをこちらのお客さまに提供したり、お裾分けしたりもするんですよ。
多様性のある空間になってますよね
はい、僕らだけだったら、かなり偏った客層になるでしょうし、地元の方からの信頼が得られるかと言うとなかなか……(笑)。その点、沢田さんのお店は地元で96年商売されていて、地域からの安心感はすごい。お菓子を買って、それからコーヒーを飲みにきてくれる方が多いし、もちろんその逆もあって。運営自体はまったく別なんですが、会社の境目なく、一緒のチームで動けているという感覚がありますね。

最後に、今後の話を聞かせてください
実はここから30分離れた植物屋さんの中で、小さなギャラリーとカフェを始めています。そこでウェイターと一緒に「いいな」って思ってもらえるコーヒーを研究しています。
いいなと思ってもらえるって、ただ美味しいだけじゃなくて、その場の雰囲気、空気感、僕たちのテイストにフィットした飲み物かどうかが問われると思うんです。そこに違和感がなければ、自然とおいしいコーヒーになるし、心地良い、いいな、って思われるんじゃないかと。

あと、いつか総合店を作りたいですね。飲食、ものづくり、コミュニティ、そういったものを全身で体験できるお店です。一杯のコーヒーを通じて、考え方が生まれたり、興奮が生まれる瞬間ってあるじゃないですか? そういう感動を生んでみたい。
なんだか最後になりましたが、ORIGAMIだってきっとそうですよね。商品を本気で作って、Jpanese Madeらしいものができて、それを通して世界と繋がっていく。それ自体が感動的だし、アート性を感じますよ。


メヌマハウスの外では、お菓子を買って帰る方や、コーヒーを飲みに来る方、公園で遊ぶファミリーの方、畑仕事をする方、それぞれが楽しみながら自分の時間を過ごしていました。
この中で飲むスペシャリティコーヒーは、さぞいいだろうな、と思います。ぜひお菓子を買って、飲みにきてください。沢田本店のお菓子なら持ち込みOKだそうですよ。
メヌマハウス
https://instagram.com/menumahouse?igshid=1v955ycmc7oh1
ワイズカフェ
https://instagram.com/yscafe2017?igshid=1vd750j4gvujs

加藤信吾
Kato Shingo
ORIGAMIのブランド設計に外部パートナーとして携わるなかで、様々なバリスタと出会い、各地のスペシャルティコーヒーに感動し、気がつけば一日2杯のコーヒーが欠かせない日々を送る。
twitter:@katoshingo_
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